VOCALOID ─祈り編─
こんにちは、hueniumです。
VOCALOIDについて喋らせてもらいたいと思う。
一日過ぎてしまったが、本稿をもって、かつての夏、やり残した宿題への贖罪とさせていただきたい。でも今は8/31よりも早く夏休みが終わるんだって。僕らがあの日見た夏休みの終わりは、今では国の制度に殺されてしまった。
VOCALOIDとは、という説明は今や不要だろう。
僕が初めてそれに触れたのは、2007年のことだった。ニコニコのログイン規制がなくなり、私がMyPCを手に入れたリアル厨二の時分、アカウントを取得し、適当に開いた動画。VOCALOIDについて、当初はその存在すら知らず、「やけにケロケロしているこの声はなに?」と困惑したものだった。
まず、前提として述べておきたいのは、VOCALOID曲と呼ばれる音楽は、要素ではあっても何らかの音楽性を示すジャンルではないということだ。「とある楽器を必ず使用している音楽の総称」くらいが、認識としては正しい。
アマチュア個々人が主にDTMで作った音楽に、VOCALOIDというソフトを使用しているということ。当然ながら、その音楽性は作曲者に委ねられる。
この文章を読んでいる貴方の好きなアーティストが、なにを思ったのか突如VOCALOIDを使いだしたとして、それはVOCALOID曲と言われることになる、ということを想像すれば、上記のことが実感として理解されることと思う。
だから、VOCALOIDの全体観というものに、僕はあまり興味がなく、また、詳しくもない。それに近しい話をするのであれば、例えばボカロP出身の一般アーティストなどは、皆さんご存知のsupercellや米津玄師をはじめとして存外多く、さながらライトノベルから一般文芸へその拠を移した作家のようで面白くはあるのだが、それは調べれば出てくる情報に過ぎないし、ここでは述べない。
必要なのは愛である。よって、本記事では、VOCALOIDのシーンの変遷などを追って紹介するようなものではなく、ただただ私の好きな曲、面白いと思った曲を紹介するだけの記事となる。感情を走り書きした、雑多な詩のようなものである。(不可思議/wonderboy「続・素顔同盟」)
さて、上記ではVOCALOIDだからという括りでは音楽性は定義されないとはいったが、無論要素としての特性といったものは存在する。
まず、VOCALOIDは生きていない。素晴らしいことに。
これは本当に素晴らしいことなのだ。
誤解してほしくないのは、ここで僕が述べたいのは、人間に出せない声が出せるといった技術面の話ではない。
人の声が聴きたくないとき。クラシックやインストも少し違う気分。そういったときにボカロ曲は僕にぴたっと嵌め込まれる。
具体的には、肉声の持つ「生」のオーラを感じさせないのだ。
即ち、VOCALOIDとは死の音楽なのである。
最後はちょっと言ってみたかっただけである。
閑話休題。好きなVOCALOID曲を紹介しよう、とは思ったものの、何らかのテーマがなければどれを挙げたものかと迷ってしまったため、今回は「VOCALOID─祈り編─」とえっちなげーむみたいなサブタイトルをつけて、好きな曲の中で、私が祈りの要素が強いと思うものを挙げていく。
ところで音楽の四大要素として広く知られているのは、メロディ、ハーモニー、リズム、そしてプレア(祈り)であるが僕は特に祈りが音楽には重要だと思っている。
祈りのない音楽でも良い音楽はいくらでもあるが、祈りのある音楽はいつだって名曲だ。
それはネットミーム風に「尊い」と下卑た言葉に端的に言い換えても大きく外れることはないのかもしれないが、あまり好きな言葉ではない。愛は祈りだ。つまり、祈りは愛なのだ。しいて音楽の尺度として分かりやすく換言するならば、「救済度」であろうか。僕はいつだって救われたいのである。
■ヒッキーP
まず、僕の少年期の音楽観に多大なる影響を与えた音楽の一つである、
ヒッキーPの曲をいくつかおすすめしたい。
①残光
ヒッキーPの曲は、ジャンルとしてはインダストリアル、ポストロックといったところになるものが多いが、この曲はヒッキーPが昔に作った曲ということで、他の曲と比べればリズムも一定で、曲として聴きやすいものになる。
一番好きな曲であり、少年期の不安な夜のお供であった。ラストの「残光に呑みこまれた」と叫ぶリンちゃんの声が音に飲み込まれていく様には、思わず膝を着き両手を組んでしまうことと思う。
②発火
1分24秒のその全てが完成されている。
③のどが渇く
代表曲。これから聴くとよいかもしれない。
どの曲も、リンちゃんはごリン終寸前の金切り声をあげているが、とんでもなくキャッチーなメロが、きらきらと輝くものとして音の間を刺すように過ぎ去っていく。僕はここにも打ち付けられたビニール傘を幻視した。必然、両手を組み祈りを捧げることとなる。
■わたしのココ
わたしのココは、厳密にはVOCALOIDを使用していない。使用されているのは、LaLaVoiceという、昔dynabookにプリインストールされていた音声合成ソフトだ(らしい)。細かい話は置いておいて紹介させてほしい。
①五月雨ブルドック
※0:51からブラクラ並みに爆音となるので本当に音量に注意してください。
ノイズの隙間から、「愛してるっていわれたいの」と叫ぶ無機質で悲痛な少女の声が君の脳を洗う。
どこまでも悲痛でありながらも耽美であるのは、やはり彼女が生きていないからだ。無機質な口から放たれる悲痛さが、この世のものではないような神々しさと身近な等身大の苦痛とを共存させる。
曲の終わり、ノイズと叫びを抜けた先の、ひやりとするほどの綺麗な残滓が胸を打つ。臨死体験かのようだ。そこにはただ、真白な世界が広がっていた。
②君といっしょ
『ガラス割るより悪いことしたんだ』
『ずっと憧れてたんだ、君といっしょに逃げる。世界を連れて』
『──明日終わるって知ってる』
上記の歌詞に心がざわめいた方であれば気に入るであろう最高の一曲。
人を殺した女子高生(多分)二人が盗んだバイクで走り出す。僕らはいつも「もうほかのことなんてどうなってもいいんだ」と思える一瞬のきらめきを求めている。
(ちなみにこのアルバムのジャケは、「女子高生エフェクターを買いに行く」などのまつだひかりが描いている)
また、わたしのココは、ほとんどのアルバムをbandcampからフリーDLできる。
アルバムとしては、『まごころを君に』が一番好き。アルバムタイトルトラックはぜひ聴いてほしい。
※ここから下はノイズミュージックのようなものは出てきませんので上記が合わなかった人も待ってください。
■816
①この世界に花をうえて
※埋め込みでは聴けないようなのでリンクとんでください。
UKロック色溢れる一曲である。じわじわと歪んだバッキングの波に、リバーブの効いたバラード。
まずなにがいいって、タイトルだ。この世界に花をうえて。
丁寧に丁寧に紡がれるサビのメロディとコーラスワーク。世界ってもしかして美しかったのか。
■ジェバンニP
①夏透明電気信号オモイデ
※埋め込みでは聴けないようなのでリンクとんでください。
皆さんの少年期にも、少女とある夏を過ごした思い出があるはずだ。
私はある。ある。在った。誰がなんと言おうと。世界がそれを否定しても。
遥かなジュブナイル。瞳の中のレインボー(山下達郎「JUVENILEのテーマ〜瞳の中のRAINBOW〜」)。
いずれあの夏の思い出も、全てがなかったことになるのだろうか。
②やさしいうた
やさしい。
余談だが、ジェバンニPは有名なフリーゲーム作成者であると同時に、小説家である。
■36g
①あたたかな日々はゆりかごの中で
長くなってしまったが、最後はこの曲で締めさせていただきたい。
ジャンルとしてはシューゲイザー。溢れ出るTrue END感。グランドフィナーレ。
そのまま人生のスタッフロールが流れてきそうな。壮大でありながら、日常に寄り添ってくれる一曲。夢みたいにきれいで泣けちゃうな。
きっとすべてがうまくいく。いや、うまくいかないこともあるかもしれないけれど、なんだか少し上向いてくれるんじゃないか。
そんな風に思える、どこまでもあたたかな一曲である。
以上となります。
テーマの性質上もあるがこうしてみると完全に回顧に寄ってしまったので、もしまた書くなら最近知ったおすすめの曲を雑多におすすめしていきたい。
もっとピコピコしたアップテンポの曲だったり、文化祭みたいなギターポップも大好き。
結局祈りとはなんだったのだろうか。